日本急性血液浄化学会について

理事長挨拶

2023年9月より特定非営利活動法人日本急性血液浄化学会において理事長の任を拝命いたしました東京大学救急・集中治療医学の土井研人と申します。本学会は1990年10月に急性血液浄化研究会として設立され、2000年に日本急性血液浄化学会となり、その後、2005年に特定非営利法人日本急性血液浄化学会として活動をして参りました。その活動内容は急性期病態における血液浄化療法の役割を確立し、我が国において普及させることを目的としておりました。臨床的な検討のみならず、基礎医学あるいは医工学的な研究の成果が数多く本学会から発信され、その成果によって急性期における血液浄化療法が一部の施設でのみ施行可能な特殊な治療から、日本全国の一定規模の施設では安全に施行される治療に変容したと思われます。我が国における急性血液浄化療法の発展と普及にご尽力されてきた先達と歴代理事長の先生方に敬意を表します。

しかしながら、重症の急性腎障害において血液浄化療法が開始されることは、強い予後悪化因子であることが数多くの疫学研究で報告されているように、急性血液浄化療法による救命が得られる一方で、長期的な治療成績においてはいまだ課題が多いと思われます。国外に目を向ければ、急性血液浄化療法の至適な開始時期や治療条件に関して、現在進行形で多くの臨床研究が行われている状況ですが、確固たるエビデンスに基づいた最適解はまだ得られていません。敗血症や急性腎障害などの複雑な病態に対峙するに際して、画一的な治療戦略をとるのではなく、個々の症例と病態に応じた個別化医療の必要性が指摘されていますが、急性血液浄化療法においても今後はこのような方向性で新たな治療戦略を考える必要があると思われます。そのためには、医工学の知識に基づく治療原理の正しい理解と、敗血症や急性腎障害などの複雑な病態の科学的な解析は必要不可欠であり、本学会においてはこれらの2つの課題について更に探求する必要があると考えています。

この十数年において、特に集中治療領域では多職種によるチーム医療の重要性が認識されるようになりました。急性血液浄化療法には、医師のみならず様々な分野・職種の医療者の参画が必要不可欠です。医療機器のスペシャリストである臨床工学技士に加えて、看護師、薬剤師、栄養士、理学療法士などの職種が実際の臨床において急性血液浄化療法を受けている患者さんの診療に参加しています。本学会が取り組むべき3つ目の課題として、これらの職種の方々が日々の診療に活用できる有用な情報や教育マテリアルを、積極的に配信したいと考えています。また、コロナ禍で中断していた国際交流についても活動を再開いたします。

本学会は1000名近くの学会員を有するようになり、認定制度や学会誌発刊も順調に進められております。しかしながら、本学会のさらなる発展のためには、学会員の皆様のご支援とご協力が不可欠です。本学会の活動を通じて、我が国のみならず全世界の急性血液浄化療法が発展し、急性期病態の重症患者さんの救命と予後改善に貢献できるよう尽力致しますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

2023年11月吉日
特定非営利活動法人日本急性血液浄化学会
理事長 土井 研人

特定非営利活動法人 日本急性血液浄化学会